第7回北海道地域福祉学会優秀実践賞 授賞団体
このたび第7回北海道地域福祉学会優秀実践賞の2団体が決定しましたのでお知らせします。本事業は、北海道内の地域福祉に関する優秀な実践を顕彰し、地域福祉にかかわる優れた実践を掘り起こすとともに、北海道の地域福祉の一層の発展と向上に寄与することを目的に実施するものです。
以下に受賞団体の活動概要と推薦内容のまとめを紹介致します。次年度以降も多くの推薦が寄せられることを期待しています。
2025年1月27日
北海道地域福祉学会 会長
Ⅰ.芸術の森マルシェ「八百カフェ」実行委員会
法人設立 2022年4月1日
代表者 片山 めぐみ
住 所 札幌市南区芸術の森 1 丁目 札幌市立大学 片山研究室
ホームページ https://yaocafe.jp/
1.推薦理由
芸術の森マルシェ「八百カフェ」実行委員会は、札幌市立大学教員および学生、地域活動団体、医療福祉専門職により構成され、「コミュニテイマルシェ八百カフェ」を運営している。地域社会で何かチャレンジしてみたい人々が軽い気持ちで参加することができ、客や出店者として通い続けるとソーシャルキャピタルが醸成され、副次的に様々な活動や組織が創出されることをコンセプトにしている。
本学デザイン学部と看護学部、外部の医師、理学療法士、歯科衛生士、整体師などが連携することで、デザイン性豊かな商品の購入 やパフォーマンス鑑賞といった楽しみのついでに健康チェックや体操教室を利用できる環境が実現した。「地域のイベントに参加しているうちに気がついたらプライマリケアに繋がっていた」という づくりは、既成の事業にとらわれない先進的かつ先駆的な取り組みである。
コロナ 禍中にあった 2021 年、学生達に よる地域 の居場所構想が八百カフェの発端となった。教員らが、大学のある地で10年前から朝市を開催してきた地域団体と学生達とを繋ぎ、当実行委会が結成され、世代交流とチャレンジを支援する独創的な活動が始まった。学生達は、「誰がどうやって 取り組むのか?」という地域コミュニティの問題に対し、活動自体が愉快な営みとして血気盛んに新しい解を見出そうとしている。メディアに取材されたり、2023 年度札幌市立大学学長奨励賞を受賞するなど取り組みが認められる一方で、飽くまでサークル活動を気軽に楽しみたいだけという学生もいる。これは翻って、地域住民にとっての福祉や社会貢献に対する理解のハードルが高いのと同様である。地域住民を巻き込んだ福祉は、お題目を唱えて実現するものではなく、「たのしい」「ほうっておけない」といった人間性に根ざした衝動が根本にある。学生にとって余暇活動として楽しみ、活動する中で 「支えることで自分も豊かになった」という実体験が創出できれば、そのまま地域住民による主体的な活動の社会実験になる。
当実行委員会は、道内に数多く存在する同様のマルシェを地域住民の役割・居場所の創出、健康づくりを促すケアコミュニティに発展させる方法論について研究している。この成果は同様の地特性や課題を抱えた北海道の他市町村への波及が期待でき、発展性が見込まれる。
実行委員会メンバー
実行委員長・事務局長:片山めぐみ(札幌市立大学デザイン学部准教授)事務局総務関係,全体運営
副実行委員長:小林真美(朝市クラブ代表、芸術の森地区福祉のまち推進センター運営委員長)森の朝市担当
実行委員:村松真澄(札幌市立大学看護学部准教授)森の健康相談室担当
実行委員:檜山明子(札幌市立大学看護学部准教授)森の健康相談室担当
実行委員:武田亘明(社会福祉法人旭川旭親会)外部福祉系団体等連携担当
実行委員:松永隆裕(日本医療大学病院)外部医療系団体等連携担当
実行委員:大村莉乃 (札幌市立大学大学院デザイン研究科博士前期課程1 年)学生サークル担当
実行委員:村松未恵 (札幌市立大学大学院看護学研究科博士後期課1 年程)森の健康相談室担当
2.実践概要
(1)運営内容
「コミュニティマルシェ八百カフェ」は、5月~10月の第 1 日曜日、午前9時~11時に開かれ、開催時は出店・パフォーマンス申し込みが約40件、毎回200〜400人の来場者がある。1回の売り上げは20万円程度である。学生やこどもを含む地域住民、農家、商店、医療福祉専門職、フリースクールの児童が出店し、大学サークルや地域の音楽家、ダンサー、小学校スクールバンドなどがパフォーマンスを披露する。学生サークル が広報を担当し、ホームページやSNS、町内会回覧板だけでなく、チラシを毎回 1000 件規模でポスティングしている。運営費は、札幌市さぽーとほっと基金令和 6 年度テーマ指定助成事業(180 万円)、札幌市南区「学生が主体的に取り組むまちづくり活動助成金」(2022年度・2023年度計40万円)をはじめ、札幌市立大学後援会補助金、株式会社キャリア・ナビゲーション寄付金を資金としている。

写真:八百カフェ開催時の様子
(2)医療・看護・福祉とデザインの運携によるケアコミュニティの試行
開始当時はマルシェのみであったが、想像以上に多くの地域住民が集まる場になったことで以下の活動や組織が生まれた。
1 ) 森の健康相談室
札幌市立大学看護学部の教員と学 生による健康測 定(体重、身長、血圧、握力、ADL、骨密度、転倒リスク、オーラルフレイルなど)やセルフケア講習、医師による健康相談、理学 療法士による健康体操、歯科衛生士による口腔チェック、整体師による背骨ケアを行なって いる。相談室を訪れた来場者に測定結果が記録されるカードを配布し、マルシェでの買い物 クーポン券を渡すことで継続利用を促進している。
2 ) フリースクール支援
フリースクールに通う児童を対象に、得意なことで個人出店できるサービスを提供している。今までに飲食店や射撃屋、アート展示、雑貨店などを出店した。勉強嫌いな児童が多いため、材料の原価や売り上げの計算、制作ノートや看板、メニュー表の作成を通して読み書き算盤の機会をつくつている。売り上げの使い道も提案させ、社会との繋がりの中で成功体験や自己肯定感を育む工夫をしている。出店がきっかけで商品のインスタ販売に発展した り、他のお祭りでも出店するようになった児童が出てきたことが成果である。
当実行委会はマルシェというプラットホームを した上で以上のような医療福祉の種を蒔いて育てている物や報、人が行き来するマルシェを活用した相互扶の場づくりである今後は、医療福祉専門 が対象者にアウトリーチできる場として活用されていくほか、ケアを必要とする当事者同士、ひいては地域へと開かれたプライマリケアの 場となっていくことが考えられる。

3.文献
- 八百カフェ学生実行委員会:コミュニテイマルシェ八百カフェ、https://yaocafe. jp(アクセス日2024 年 11 月 15 日)
- Sapporo PRD : 札幌ふるさと再発見一2023 年 8 月 5 日放送、学生 ・市民協働プロジェクト八 百カフェ、 https://youtube.com/watch?v=HPzr7_ jAJJw&t =2s(アクセス日 2024年11月15日)
- 武田亘明、片山めぐみ:地域コミュニケーション活性化を目指した地域連携型プロジェクトのデザイン、 日本教育 工学会研究報告集2022 (3) 、pp. 168- 175、2022
- 大村莉乃、コミュニテイマルシェ「八百カフェ」における社会的居場所の創出に関するアクションリサーチ― 参加者の役割の自己認識に着目して一 、2023 年度札幌市立大学デザイン学部人間空間デザインコース卒業研究、 2024. 3 くデザイン学部長賞(最優秀卒業研究)受賞>
- 片山めぐみほか、コミュニティマルシェを活用したケアコミュニティ・デザイン一札幌市立大学学生サークル「八百カフェ実行委員会」 のまちづくり一 、札幌市立大学研究論文集、第 18 巻、第 1号、pp. 31- 38、2024
- 村松真澄ほか、大学の連携教育から生まれたコミュニテイマルシェでみんなが主役,そして子供健康教育から地域健康づくりへ発展、日本且翡祭保 健医療学会第38 回東一日本地 方大会、p. 23、2024
- 村松真澄ほか、デザイン学と看護学の連携によるコミュニティヘルス活動ー「楽しい」を通じた心身の健康づくり 、第 44 回日本看護科学学会学術集会交流集会プログラム、p. 35、2024
Ⅱ.NPO法人ワーカーズコープあさひかわ(旭川地域福祉事業所)
法人設立 2021年3月15日
所 長 諸澤 郁子
住 所 北海道旭川市神居8条6丁目1-2
1.推薦理由
ワーカーズコープ(労働者協同組合)は、長く法制化(労働者協同組合法)を目指す活動により、地域に求められる「仕事おこし」を行ってきた団体である。労働者協同組合法は2022年10月に施行されたばかりであるが、NPO法人ワーカーズコープあさひかわによる地域福祉活動は、法人格を取得する以前の2007年から続く息の長い取り組みである。地域とともに、さまざまな地域づくりの実践を築いてきた旭川市のワーカーズコープ(「地域共生拠点 みんなのおうち トクさん家」(以下、「みんなのおうち」とする))を貴学会地域福祉優秀実践賞に推薦する。推薦理由を以下四点にまとめる。
(1)先駆性
ワーカーズコープあさひかわが中心となって開設したみんなのおうちでは、地域食堂やイベント等で障害児と地域住民が交流する機会や元気高齢者がボランティアとして活躍し、地域共生型の空き家を活用した常設の居場所として先駆性が認められる。ワーカーズコープあさひかわが、子どもに関する問題により積極的に介入する機会を得てきた背景には、2015年4月に児童センターの指定管理を受け、様々な背景のある子どもの存在を把握したためである。具体的には、ひとり親家庭で給食しか食事をとっていない児童センター利用児がいることを知り、2015年11月に旭川市で初めての子ども食堂である「北門こども食堂」が始まった。そして、子どもたちが成長するにつれ、社会的養護が必要となる高校生の支援を創出するために、旭川市以北に初めての自立援助ホームの立ち上げに向かっていくことなった。さらに、2019年には、障害児のデイサービスの開設につながっている。
(2)独創性
旭川市は道北地域の中心都市であり、NPO活動や全15地域のまちづくり推進協議会による市民活動が取り組まれている。「みんなのおうち」のある神居地域の高齢化率は39.7%(2024年12月)と全市の高齢化率を上回っている。「みんなのおうち」は、地域包括支援センターが音頭を取り組織されたボランティアグループ「ハートフレンドの会」が主体的に活動を進める場や、高齢化率の高い神居地域で多世代が集い、利用する場の創出が必要であったことから、高齢者の活動場所の確保と共生の居場所としてスタートしている。「みんなのおうち」では、ハートフレンドの会の地域食堂の会場や、現在では拠点維持の中心事業として放課後等デイサービス等を利用する子どもたちがいる。「みんなのおうち」のイベントの中には、子どもを対象としたものも取り入れられ、地域の様々な人がつながることを意図し、資料③の図2が示すような家庭や学校で普段関わることがないようなワーカーズコープのスタッフやボランティア、地域住民等がともに支え合い、交流する場となってきたことに独創性が認められる。
(3)主体性
「みんなのおうち」の実践は、ワーカーズコープが目指す「地域づくりと仕事おこし」の実践の場である。地域課題や生活課題を受け止め、ハートフレンドの会に代表される団体の活動を中心として地域のつながりづくりを構築すると同時に、実践活動の核となるサービス提供を通じて市民の仕事を創出している。そして地域福祉活動に不可欠な拠点の確保において空き家を活用し、自助努力で光熱費等の日常的な経費の創出している点も独立した団体として自主性、主体性の高い取り組みといえる。また、活動拠点となる地域の空き家の確保では、ワーカーズコープのメンバーの仲介により、無償で譲渡を受けたり、経費は開所記念のお祭りの際の物販による売り上げ等をプールすることで賄われ、地域食堂開催の際には旭川おとな食堂のフードバンクや農家、コンビニエンスストア等から無償・安価に規格外のものを含む食材等を譲り受け、かかる費用の負担を最小限に抑える工夫も行われていた。
(4)発展性
「みんなのおうち」内での活動は、ワーカーズコープのスタッフが兼務しており、またボランティアとも毎月定期的な打ち合わせの機会を持ち、活動の振り返りや収支報告を行っている。「みんなのおうち」を支えていくにあたっては、スタッフやボランティアも「できることをできるときにできる分だけ」を大切にしている。全国各地で人口減少、高齢化が進行し、地域福祉活動の継続や担い手不足の課題が指摘されるが、地域の実情や住民が抱える生活上の課題解決をともに考え、実行に移すというスタンスは地域福祉活動を持続させていく原動力であり、発展性(活動の継続)において重要な条件になる。そして、急速な人口減少に直面している北海道の各地域においても有用な活動といえる。
2.実践概要
NPO法人ワーカーズコープあさひかわ(旭川市地域福祉事業所)は、労働者協同組合により、2000年代から中学校区ごとに介護保険事業や元気高齢者づくり、子育て支援、障害者や若者支援等地域福祉全般等に取り組む「地域福祉事業所」の一つである。
① 「みんなのおうち」の開所経緯
ワーカーズコープが「地域総合福祉拠点」として地域を支える地域共生拠点みんなのおうちを旭川市神居地区に開所したのは2018年11月であった。「みんなのおうち」構想は、ワーカーズコープが指定管理に参入する中から、地域社会の課題を受け止め対応する必要性が高まり、「誰もが居場所と役割を持てる場をつくり出す」ものとして提起され、旭川市の活動は全国の中でもその先駆けとなったものである。旭川市の場合は、当該地域を担当する神居・江丹別地域包括支援センターとボランティアグループ「ハートフレンドの会」との協同により、NPO法人ワーカーズコープあさひかわが運営している。
神居・江丹別地域包括支援センターで活動するハートフレンドの会が活動場所を探していたことから、すでに旭川市内で開催されていたこども食堂、フードバンク、おとな食堂のノウハウを学び、2017年8月に第1回目の地域食堂を開催(3か所で2回ずつ)し、2018年には3か所で5回開催、そのほかに朝活として、学習支援と昼食提供を夏に1回、冬に2回開催された。地域食堂の参加者は300人を超えたという。
2018年には、地域の課題について話し合う中で、土地と家の無償提供を受けた交流の場であるみんなのおうちが立ち上げられることになった。地域の空き家調査を行っていた中で当時のセンター長(保健師)の知人の姉が施設入所し、その家の活用にあたりワーカーズコープが調整を行い、開設にこぎつけた。
② 「みんなのおうち」の活動内容
「みんなのおうち」は日常的に地域開放され、地域サロン(月1回)、地域食堂(月2回)、認知症予防教室(月2回)の会場として活用されているほか、同じ場所では、2019年4月から放課後等デイサービス・児童発達支援事業(月~金)も実施しており、地域住民や障害のある子どもたちとの交流も自然に行われている。
さらに2022年には、市内に児童センターがない地域の子どもたちが自ら企画した遊びを実施する「マチデコ*キッズ」や「放課後*マチデコ」、児童センターでの遊びを体験する「出張児童館」も開催されている。
(補足:NPO法人ワーカーズコープあさひかわ(旭川市地域福祉事業所)のこれまでの事業概要について)
NPO法人ワーカーズコープあさひかわは、児童センターの指定管理(6か所)、子育て支援センター(2か所)および老人福祉センターの運営(1か所)、障害児・者の福祉サービス提供(2か所)を行っている。当初から地域の子どもに関わる問題を受け止め、2015年に子ども食堂がスタートした当初は子どもの居場所づくり(子ども食堂・学習支援・プレーパーク)の実践団体のネットワーク化を進める中間支援組織として立ち上げられた「旭川おとな食堂」の事務局(2016年~2024年3月まで)を担い、近隣農家やJAから集まる野菜等の食材を各子ども食堂運営者に提供するフードバンクのしくみが作られた。また、家族と一緒に生活することが困難な主に高校入学年にあたる15歳からの青年が働きながら自立生活を送る暮らしの場となる自立援助ホームの立ち上げにも関わった。
参考資料
① 『協同の發見』(一般社団法人協働総合研究所)2018年8月号
「協同総合福祉拠点づくりに向けた旭川地域福祉事業所の取り組み」p27~42
・今井一貴 ①社会連帯活動(こども食堂・おとな食堂)から仕事おこし・みんなのおうち構想へ
・清水冬樹 ②子どもが地域につながる自立援助ホーム
・諸澤郁子 ③わたしたちの「みんなのおうち」構想
② みんなのおうち通信 2024年10~12月
③ 日本労働者協同組合連合会「協働総合福祉拠点 みんなのおうち実践事例集」(2021年発行)
④ 杉岡直人(2020年)「まちづくりに向かう子ども食堂の中間支援組織:旭川おとな食堂」『まちづくりの福祉社会学』中央法規.
⑤ 児童センター活動実績